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毎回、様々な業界でご活躍のかたにご登場頂き、様々な角度からお話を伺っております。

大原悦子さん プロフィール

ライター。1958年東京生まれ。
津田塾大学国際関係学科卒業。82〜99年まで朝日新聞記者。在職中の92年ハーヴァード大学ケネディ行政大学院修士課程修了。夫の転勤で2000年7月〜2年2ヵ月ローマで過ごす。訳書に『ソウル・トゥ・ソウル』(朝日新聞社刊)。


 
「ローマの平日 イタリアの休日」
文と絵 大原悦子 写真 小野祐次

コモンズ刊
 

大原悦子さんは、私が留学したアメリカ、ウエスタン・ワシントン大学で共に学んだ友人です。偶然、書店で彼女が書いた「ローマの平日 イタリアの休日」という本を手に取り、インタビューという形で20数年ぶりに再会を果たしました。英語が堪能な大原さんが2年間、イタリアに滞在した時の興味深い話を伺いました。
(インタビュアー M&PI 桃原則子)

001. 突然の転勤でイタリアへ

桃原 お久しぶりです。20数年ぶりでしょうか?

大原 私は卒業して、すぐに朝日新聞に入って奈良支局に赴任したから、なかなか会うチャンスがなかったんですよね。

桃原 新聞に署名記事が掲載されたのは読んでいたので、遠くからエールは送っていたんですよ。今回はこの本がとてもお もしろかったことと、M& Partnersに登録していただいている方の中に、本業は英語でもイタリア語を勉強していたり、留学経験があったりというイタリアファンが多いというこ とから、ぜひ大原さんとこの本を紹介したいと思ったんです。まず、イタリアに行かれたきっかけというのは?

大原 夫が外報部の記者で、ローマに転勤になったので、ついて行ったんです。

桃原 その時、お仕事は?

大原 前年に退職していたので、仕事は問題なかったのですが、転勤が決まったのが突然だったのでたいへんでした。

桃原 転勤っていつも突然なんですか?

大原 次はブリュッセルかウィーンかも、って言われていたんです。それでラジオ・フランス語講座とドイツ語講座の4月 号のテキストを買って準備だけはしていました。でも、異動はなくなったと言われて気がぬけきったところに、今度は突然ローマだとなり、1ヶ月くらいの準備 で行くことになったんです。

桃原
 1ヶ月の準備期間って短いでしょう?

大原 ええ、まずビザをとることから始まって。私たちは夫婦別姓でやっていて籍も入れていなかったので、ビザをもらうためにあわてて入籍したり(笑)。

桃原 事実婚じゃビザをくれないんですね?

大原 カトリックの国だからでしょうか。そんなこんなでイタリア語を勉強する暇がありませんでした。 

002. 当たってくだけろ式イタリア語学校

桃原 イタリア語の知識はあったのですか?

大原 ほとんど0の状態ですね。知っているのは、ボンジョルノとパスタとジェラートと・・・(笑)。数字も5つまでしか覚えられなかったし。でも、イタリアって世界中から観光客が集まるところだし、ましてや首都ローマなんだから英語が通じると思っていたんですよ。

桃原 通じますよね?

大原 それは中心部のホテルとかレストランとかの観光スポットの話でした。私が住んでいた支局兼住宅は、ローマの中心 のテルミニ駅から車で20分くらいのところでしたが、日本人の英語よりひどかったですね。買い物に行っても何にも通じなくって、これはたいへんだと思っ て、着いて1週間後にイタリア語学校に行くことにしたんです。

桃原 私は20何年くらい前から何度もイタリアに行っていて、英語は通じるという印象があったんですけれど。

大原 私もそう思っていたので大誤算でした(笑)。一般の生活では全然通じません。

桃原 それで、語学学校へ入ったわけですね。

大原 テルミニ駅から5分くらいのところにある有名な学校で、ヨーロッパの人が多く通っていました。もちろん初級クラスに申し込んで、初日にノートと辞書と鉛筆を用意して待っていると、いきなり先生が「机の上に置いてあるもの全部片付けて」っていったんです。

桃原
 全部?

大原 ええ。その時は夏だったのでヨーロッパの若い学生たちが多くて、12、3人くらいのクラスでした。まず先生が 「私の名前はラウラです。あなたの名前は?」っていうのをイタリア語でやるんです。それをブラジルの人なんかは、わかってできるんですよね、で、それがク ラス中続く。

桃原 いきなり、なんの説明もなしで?

大原 そうです。あとも先生はずっとパントマイムつきのイタリア語。英語もいっさいなしでした。

桃原 ブラジル人なんかは、言語が近いのでわかるかもしれませんが、他の国の人は?

大原 私を含めて韓国とかポーランドとか、言語がリンクしない国の人は、みんなポカーンとしてる(笑)。そんな状態が 1週間くらい続くわけです。その次の授業では、イタリア人同士が会話しているテープを何回も聞かされて、二人ペアになって何がわかったかを話し合いなさ い、って言うものでした。

桃原 もちろんイタリア語で?

大原 そう。最初はブラジルの人と組んで、どうやら男女で話しているのはわかる。彼が「ウォモ(男)?」と言うので、 私も「ドンナ(女)?」(笑)。そこで、もう1回テープを聞いて相手を代え、またわかったことを言い合う。すると、前の人とはわからなかった新しい情報が わかりますよね。それでパズルを組み合わせるようにして、「男の人と女の人が駐車場の問題でしゃべっていた」という結論がでるんです。でも、それが正解か わからないまま授業が終わるんです。

桃原 教えてもらえない?

大原 つまり、日常生活でイタリア人としゃべっていて「それが正解ですよ」とは教えてくれないじゃないですか。それの訓練だと。

桃原 たいへんな学校に入ってしまいましたね。

大原 本当に。でも、なんとかしなくちゃ暮らしていけない、という気持ちが強かったですから。今でも夫が覚えているの は、その教室の2日目に支局に帰って、私が「ファ カルド ダ モリーレ!」って言ったらしいんです。支局の助手のイタリア人が「すごい、もうそんなこと が言えるの?」って大受けして(笑)。「暑くて死にそうだ」っていう意味なんですけど、先生がその日言ったのを覚えていて、試してみたんです。これは、小 さい子が言葉を覚えるのとまったく同じ覚え方だと思いました。

桃原
 その教え方、いいかもしれないですね。

大原 日本の語学学校もこうやって教えたらいいと思いますけれど、やっぱり日本人には合わないでしょうね。何の話だったのかわからないと、気持ち悪いでしょう? だから、きっちりした答え、裏づけ、文法がわからないとイヤっていう人には向かない学校でしたね。

桃原 どこかで文法は習ったのですか?

大原 クラスが進むにつれ、なんとなく文法を黒板に書いたりはしましたね。

桃原 そこに2年間ずっと通ったのですか?

大原 通っていたら、もっとうまくなったと思いますけれど(笑)。3ヵ月ごとに区切りがある学校だったので、行って は、またちょっと休み、みたいな感じでした。でも、ローマの人はおせっかいですから、学校以外でも近所の八百屋のおばさんとか、アパートの管理人さんが 「ちょっとシニョーラ、いまの文法は間違っている」とか「その発音はまずい」とか。生きたイタリア語を教えてくれる“先生”がたくさんいました。八百屋さ んなどは「リンゴ」を正しく発音できるまで売ってくれないような、スパルタ教育でしたよ(笑)。

 

003. 語学習得には耳が大切

桃原 その他にはどんな授業があったのですか?

大原 あとはもうちょっと強制的っていうか。例えば、先生がラウラさんとルイジさんの会話のお手本を示してくれて、それをペアを組んでみんなの前でやらされました。

桃原 ロールプレイングですね。

大原 それも耳で覚えるだけなんですよ。覚えられなくても、とにかく話す。

桃原  恥かしがって「いやー」とかありませんでした?

大原 みんなやりましたね。途中忘れちゃってもなんとか、助けてもらいながらやるんです。日本の語学学校のことはよく知らないんですが、そうやって人前で恥をかかせるようなことをやらないんじゃないかしら?

桃原 やっぱり生徒はお客様っていう意識があるんでしょう。

大原 でも実際は、恥ずかしくても何でも、しゃべらないことには上達しないんですよ。間違えたっていいし。

桃原 当たって砕けろですね。

大原 砕けていました(笑)。あと大事だったのは、歌うような言葉のリズム。身振りをつけて、歌うように抑揚をつけなさい、って言われましたね。

桃原 日本人は本当に苦手そう。

大原 よくタモリさんが、でたらめ中国語とかロシア語とかやるでしょう。あのリズム。日本人は生真面目にカタカナ読みしちゃうから、向こうの人に通じない。それぞれの言語にはそれぞれのリズムがあるから、それを獲得するのが大切ですね。

桃原 英語も同じですよね。耳の良さも関係あると思う。

大原 やっぱりよく聞くことが大切だとイタリアでも思いましたね。