ビジネスインタビューBUSSINESS INTERVIEW

第12回

青木 純子さん

プロフィール
津田塾大学英文科卒。
園芸家、写真家。
京都市南部の自宅の庭で300種類の宿根草や花木を育てている。 草花を庭で楽しんだ後、生花のアレンジやドライフラワー、押し花、写真でもう一度花を楽しむアフターガーデニングを提案。
著書に「KANTANでも素敵なドライアレンジ」(淡交社)、「アフターガーデニング」(主婦の友社)がある。
[ホームページ]http://www.j-aoki.gr.jp/
  1. 001. 為替ディーラーからガーデナーへの転身

    桃原

    そもそも銀行でディーラーをやっていた青木さんが、園芸家になったと聞いてすごく意外でした。留学していたときも園芸に興味があったなんて聞いていませんでしたし、なぜガーデニングに関わる仕事をやろうと思ったんですか?

    青木

    そうでしょう(笑)。実は植物が好きだったんですよ。でも若い頃はそれを仕事になんて全然考えていなくて、大学 をでて東京で外資系の銀行に勤めていました。華やかな世界にあこがれていたんですね。けれども仕事を続けているうちに、これでいいのかな・・・と思い始め たんです。

    桃原

    ガーデニングをやりたくなったとか?

    青木

    いいえ、仕事が自分の器を越えていると感じたんです。やりがいも責任もあったので楽しかったのですが、1分1秒 を争う殺伐とした中で働くのは、体力的にも精神的にも若いうちでなければ無理だと感じました。それに、その仕事では自分で作るもの、生み出すものがないん です。結局何かを作りたい人間だったんだと思います。

    桃原

    挫折感のようなものがありました?

    青木

    ありましたね。どうしたら擦り切れていく自分を止められるのだろうかと考えました。それで結婚が決まったのをきっかけに寿退社という形であっさり仕事を辞めました。

    桃原

    この仕事は違うかなと思った時と、結婚のタイミングが同じだったんですね。

    青木

    結婚が決まったら退社するのが自然の時代でもありましたしね。でも何か新しいことをやりたいとも思っていたので、とりあえず外資系の銀行に勤めている主人に『ロンドンに転勤の希望を出して』と頼んで、行くことになりました(笑)。

    桃原

    それが叶うなんて強運! でも当時は結婚したらそれで上がり、っていう人も多かったはずで、何かしようと思うのはやっぱり人とは違っていたんですよ。

    青木

    私だって何をしたいのかわからなかったんですよ。再び組織の人間としてやっていけるかどうか・・・。答えは ノー。じゃあ起業したいのかというと、それも違う。そんなことを考えながら、ロンドンで毎日美術館やミュージカルを見たり、公園を歩いて花を眺めたりして いましたね。

  2. 002. きっかけはガーデニング本の翻訳

    青木

    そうしているうちに帰国して京都で暮らすことになり、子供がいてもできる翻訳をやってみようかと考えました。どうせ訳すならば一番興味があるテーマを、と思ってガーデニングの本を選びました。

    桃原

    そこでガーデニングが登場するんですね。

    青木

    もともと実家の母は園芸が好きだったんです。小さい頃から、庭に洋風コーナー、果樹コーナー、切り花コーナーな どを作っていたのをずっと手伝わされていました。当時はいやで逃げたくってね(笑)。それなのにロンドンに暮らしているうちに、ナショナルトラストの活動 なども含めて興味が湧いてきたんです。

    桃原

    それで翻訳を始めて・・・。

    青木

    選んだのは、ジョアナ・シーンという押し花作家の本でした。私は以前から長い時間かけて育てた梅や松などの枝や 花を、簡単に切ってしまうフラワーアレンジメントや生け花に違和感を抱いていたんです。それは育てていないからできるのではないかと。でもシーンさんは 違っていて、大事に育てた花を大切にしながら楽しそうに押し花を作っています。そんな考え方も含めて日本に紹介したいと思ったんです。

    桃原

    日本では、花や枝はあくまでも素材、という考え方なのですね。

    青木

    自分が愛しんで育てたものは世界にひとつ。だからこそ大切に使うという考え方がしっくりきたんです。例えば日本では日本庭園などは別として、公園を作ったらそれでおしまい、というのが主流だと思います。

    桃原

    その点、イギリスで手入れの行き届いた公園が多いですよね。

    青木

    イギリスでは、公園も個人の家も作って終わりではなく、作り続ける文化があります。それが日本人には欠けている、と感じたんです。その心を伝えたいと思い訳し始めたのですが、3章くらい訳した時に「何だ、簡単そうじゃない」と(笑)。

    桃原

    やってみるほうが簡単そう?(笑)。

    青木

    ちょうどその時に幼稚園のバザーがあったので、庭で育てている花でドライフラワーを作ってアレンジメントにしてみたんです。その評判が良かったので続けてみようと決めました。

  3. 003. ロハスなアフターガーデニング

    桃原

    それが今では、「アフターガーデニング」という本まで出版するようになったんですね。アフターガーデニングって初めて聞くんですが、みんな知っていることなのかしら?

    青木

    いえいえ。「アフターガーデニング」って私が言い出した言葉だから、よっぽどガーデニングに興味がなければ知らなくて当然です(笑)。

    桃原

    そうなんですか? 良かった(笑)。では、どういうものか教えてください。

    青木

    ガーデニングって一時すごいブームがきて、今はちょっと落ち着いた状態なんです。私は当時から、花を咲かせて「庭がきれいだわー」で終わりという楽しみ方はちょっと残念だなあと思っていました。大切に育ててやっと咲いた花だから、もっと長く楽しめないかと考えたんです。

    桃原

    なるほど。一般的なガーデニングとは違ったことが何かできないかと思ったわけですね。

    青木

    私は京都に住んでいるわけですが、京都では「しまつする」という、物を大切に使いきるみたいな考え方があるんで す。だから花も最後まで大切に「しまつ」したい。そこでまずは切り花にして楽しみましょう。その後はドライフラワーや押し花を作れば、もっともっと最後ま で花を楽しめますよ、という提案をしたんです。

    桃原

    それでアフターなのですね。

    青木

    読者の方から「アレンジや押し花をするために花を育てているんですか?」という誤解を受けるんですが、違いま す。ガーデニングはガーデニングで楽しみたい。私が切るのは乱れた株や飛び出した枝、陰になって育ちにくそうなものばかりです。それで生花のアレンジを作 り、そのあとでドライフラワーや押し花にします。最後の最後は、腐葉土にして土に返します。ドライフラワーというのは、余分な水分を吸い取ってくれるの で、腐葉土作りにぴったりなんですよ。

    桃原

    循環しているんですね。育てて、見て、作って、土に返す。持続可能という点ではロハス的な花の楽しみ方とも言えますね。

    青木

    ロハスなアフターガーデニング(笑)。ドライフラワーは電子レンジやシリカゲルを使って作りますが、そうするこ とで色が甦る花もあります。その不思議さに最初はびっくりしました。花も押し花に向くもの、ドライに向くものそれぞれ違いますし、ドライにする方法もいろ いろです。庭に咲く季節ごとの花を使って、その花を最も美しく見せる方法を探して試行錯誤を繰り返し、そして写真に残します。その方法を園芸関係の雑誌や 本で紹介しています。

  4. 004. 誰もやっていないことをプレゼンする

    桃原

    そのやり方は先生について習ったわけじゃないんですね。

    青木

    先生につくというのが好きじゃないんです(笑)。ビジネスの世界も同じだと思うんですけれど、他の人がやっていることに切り込んでいくのはたいへんでしょう。そのエネルギーは製作に回したかったですね。

    桃原

    それはわかります。

    青木

    誰もしていないことをしたかったんです。ナンバーワンよりオンリーワン。花を育てて、アレンジをして、それを写真にまで残せる人は当時いませんでしたから。

    桃原

    それを世の中の人に知ってもらおうと思ったんですね? その時点で、趣味から仕事になった、と。

    青木

    最初は趣味でしたから、こんな花が咲いて、こんなアレンジができたんですよと園芸雑誌の読者コーナーに送ろうと思ったんです。

    桃原

    そこまでは、普通の人も考えますね。

    青木

    そうしたら主人が、どうせなら編集長に送ったほうがいいって。その上、写真データや考えたことをプレゼンの資料としてまとめてくれたので、それを数社に送ったんです。

    桃原

    ご主人の行動力もすごい。良さを認めてくれていたんですね。

    青木

    感謝しています(笑)。そうしたら、花も作って、作品も作って、写真も撮っている人なんていない!おもしろい! と判断していただけて雑誌に記事として載ることになりました。

    桃原

    写真も元々、勉強していたのですか?

    青木

    主人が一眼レフのカメラを持っていて、せっかく咲いた花やオリジナルの作品ならポジフィルムで撮っておいたほう がいいと勧めてくれたんです。花がいちばんいい状態を見極めるというのは難しいんですよ。花が綺麗でも、天気が良すぎるとか、雨が降ると撮影には向かない し。自分で撮影できればいい状態を逃がさずに撮れますから、自己流で撮りだめていました。

    桃原

    ずっと独学ですか?

    青木

    最初はそうでしたが難しくて・・・。仕事として始めてからは、偶然知り合ったカメラマンの方に、光の加減とかレフ板の使い方とか、印刷した時に美しく見える撮り方とか、いろいろ教えていただきました。この出会いはとても貴重でしたね。

    桃原

    単にアレンジメントだけじゃないところに、ビジネスチャンスがあったわけですね。

    青木

    仕事にしたいというのも、もちろんでしたが、まずはこの楽しさを知ってもらいたくなったんです。育てることのた いへんさも、楽しみも紹介したいんですね。企画を送ったことがきっかけで種苗メーカーさんからも依頼がきて、発売前の花を育ててみるという仕事もしているんですよ。

    桃原

    それは、どういう目的なのでしょう?

    青木

    実際に発売される時に、育て方のアドバイスができるようにするためです。

  5. 005. 好きなことを仕事にするとは

    桃原

    好きなことを仕事にしたい人は多いと思いますが、仕事になったとたんに、今までと立ち位置が変わってくるようなことはありませんでしたか? 好きなことだけやればいいのではなく、やりたくないこともしなくてはならないとか。

    青木

    そこまでたいへんな仕事にしていないのかも(笑)。好きなことしかやっていないし。

    桃原

    でも先ほどの話のように、来シーズンに向けて花を育ててみるという、長いスパンの仕事もしているわけですよね。イヤになったから、やめちゃえというわけにはいかないわけですし。

    青木

    私は自分の器以上のことはやれませんから、その範囲で引き受けます。花とつきあうというのは、ゆとりがないとできないんですよ。

    桃原

    ああ、そこが私たちの仕事と違うのかも。

    青木

    私は花と遊ぶという表現を使いますが、ゆっくり見る時間がないと花と遊べないんです。土を作るのも、石灰を混ぜたり耕したりと重労働なので、体力的なゆとりがないとできない。新しいアイデアも、精神的なゆとりがないと浮かばないんです。

    桃原

    ガーデニングやフラワーアレンジメントをしているマダムはいっぱいいるわけでしょう。そこからプロとして情報を発信する立場になっていくには、青木さんなりの立ち位置を確保する必要があったんですね。

    青木

    他と同じことをやってプロになるのは難しい。ましてや私は京都にいるわけでしょう。東京の出版社の方にもしょっ ちゅう会って打ち合わせができるわけじゃない。でも育てているからこそ、わかることってたくさんあるんです。例えばアレンジメントにしても、本当に同じ季 節の花だけで作れるというのもそのひとつです。写真を撮ることにしても、東京からカメラマンさんが来るとしたら、取材の日の花の状態がベストとは限らない でしょう? 自分で撮れば、そんな心配もいりません。土作りから始まって作品を作り、それを腐葉土にして庭に戻すまで、すべて好きでやっていることですけ れど、すべてやっているからこそ、仕事として成立したと思います。

  6. 006. 花を育てることは子育てに似ています

    桃原

    家庭を大切にして、花を育ててと、お母さんと同じ道を歩いていますね。。

    青木

    昔は花の世話、いやだったのに(笑)。でも、気がついたのは、花も子供も過保護にしていいことはないっていうこと。

    桃原

    花も厳しいほうがいい?

    青木

    水やりを例にとると、夏でも天気によっては2日に1度しか水をやらないこともあります。水をやりすぎると、根が 下に伸びなくなる。いつでももらえる場合は、根は地表の近くにあればいい。でも、もらえない根は、水を求めて根を広げ大地にしっかり根付くんです。寒さに も少々あてたほうがどこでも生きていけるようになる。これは子育てにもつながるでしょう? ガーデニングも子育ても、適性だけ抑えたら、あとは上手に手を 抜くことも大切なんです。

    桃原

    ガーデニングと子育ても面白いテーマだと思うのですが、例えばそんな講演をするなど、仕事を広げていきたいとは思わないですか?

    青木

    今は思わないですね。これ以上やると器があふれちゃいます(笑)。今の私ができることを雑誌やHPで伝えて、 「感動しました」「安らぎます」なんていう反響が返ってくる。それだけで「やってよかった!」って思うんです。ほめられるということが、次のガーデニング やアレンジ作りのエネルギーになるんですね。

    桃原

    それは仕事の醍醐味ですね。仕事ってきちんと出来て当たり前、ほめられるのはプラスアルファのところだから。

    青木

    あとは人との出会いを大切にしていきたいですね。今の仕事ができるのも、最初に企画を採用してくれ た編集者や種苗メーカーの方々、写真を教えてくれたカメラマン、もちろん家族・・・そんな支えがあったから。これからも人とのつながりを大切にして、器に 合った仕事をしていきたいと思います

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